構造変化2026-07-08 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

SUBARU太田城下町のEVシフトで仕事はどう変わるか — サプライヤーで働く人のキャリア防衛

「SUBARUさんの仕事をしてるから、ウチは安泰だと思ってたんですけどね」

面談で、太田・大泉エリアのサプライヤーに勤める方からこの言葉を聞くたび、僕は少し複雑な気持ちになります。安泰だと信じていたこと自体は、この20年間、間違っていませんでした。SUBARUは太田市を中心に強固な城下町構造を築き、1次・2次・3次と続くサプライヤー群は長らく安定した雇用の受け皿でした。ただ、いま円の内側では地殻変動が進行中です。エンジン部品を作ってきた会社と、電動化部品に軸足を移した会社とで、10年後の景色がはっきり分かれ始めています。

今回は、太田城下町のサプライヤーで働く方、またはこれから応募を考えている方向けに、EVシフトで何が減り、何が増えるのかを整理し、自分の身を守る(あるいは有利に使う)ための考え方を書きます。

0. 前提 — 「SUBARU城下町」という構造を知る

まず前提の共有です。太田市を中心とした群馬のSUBARUサプライヤー網は、完成車メーカーを頂点に、1次サプライヤー(部品ユニットを納める大手・中堅)、2次サプライヤー(部品や工程を請け負う中小)、3次サプライヤー(さらに専門特化した加工・部品供給)という同心円構造になっています。待遇や雇用の安定度は、おおむね円の内側(1次に近いほど)厚い。これ自体は今も大枠として正しい理解です。

ただし、この円の「中身」がエンジン系から電動化系へと組み替わっている最中だという事実を、正面から見る必要があります。

1. 何が減るのか — エンジン系部品の構造的な縮小

率直に言うと、内燃機関(エンジン)に直結する部品——燃料系、排気系、変速機の一部工程など——は、電動化が進むほど需要が構造的に縮小します。これは景気循環ではなく、技術の転換による不可逆な流れです。エンジン系の加工・組立を専門にしてきた工場ほど、5〜10年単位での事業転換を迫られています。

誤解がないように申し上げると、「明日にも仕事がなくなる」という話ではありません。ガソリン車・ハイブリッド車はまだ市場に残り続けますし、部品供給には長い移行期間があります。ただ、新規の設備投資がどこに向いているかを見れば、その会社が10年後にどちらの円に残るかは、かなりの精度で予測できます。

2. 何が増えるのか — 電動化部品と新しい工程

一方で増えているのは、モーター・インバーター・バッテリー関連の部品や、それらを組み込む新しい生産ラインです。群馬・栃木では電動化部品の新ライン増設のニュースが相次いでおり、これまでエンジン系の加工をしていた技能者が、電気系の知識を足して電動化ラインに異動・転籍するケースも増えています。

ここで重要なのは、自動車現場で鍛えられた規律(標準作業・品質管理・5S)は、電動化ラインでもそのまま通用するという事実です。ゼロから学び直す必要はなく、「経験に電気の知識を足す」という発想で十分に戦えます。

3. 会社を見分ける — 看板ではなく投資の向き

ここが本記事でいちばん伝えたいことです。「大手のサプライヤーだから安泰」という判断軸は、残念ながらもう単体では機能しません。会社の看板ではなく、その会社が次の設備投資をどこに向けているかを見る必要があります。

見分け方は難しくありません。求人票や採用ページに「新ライン立ち上げ」「電動化部品」「増員募集」といった言葉が出ているか。逆に「即戦力」「経験者優遇」の表現ばかりで新規投資の記載がない求人は、既存ラインの欠員補充である可能性が高い。転職エージェントや面接の場で「直近5年で新設した設備は何ですか」と質問してみるのも有効です。答えがすぐ返ってくる会社は、投資の実態がある会社です。

4. 3つの防衛ライン

ここまでを踏まえて、キャリアの防衛ラインを3段階で整理します。

防衛ライン1:いまの職場で電気系の知識を足す。転職せずとも、社内で電動化ラインへの異動を希望する、電気工事士の資格を取るといった動きだけで、10年後の立ち位置は大きく変わります。最も低コストな防衛策です。

防衛ライン2:投資が向いている会社へ横移動する。同じサプライヤー業界の中で、電動化部品への投資が明確な会社に移る。経験がそのまま活きるため、給与のダウンも起きにくい移動です。

防衛ライン3:第二の円(半導体・食品メジャー)に移るひたちなか・那珂の半導体圏や食品メジャーの工場群は、自動車業界の景気変動とは異なる波を持っています。品質規律の高さは、これらの業界でも高く評価されます。年齢やキャリア観によっては、このラインが最も安定的な選択肢になることもあります。

5. 実際にどう動くか — 面談でよく聞く2つのパターン

僕の面談でよく聞くのは、大きく2つのパターンです。ひとつは「いまの会社で電動化ラインへの異動を希望したが通らなかった」というケース。この場合、社外で電動化に強い会社を探すのが現実的な次の一手です。もうひとつは「会社は電動化に投資しているが、自分の職種(エンジン系加工)だけが取り残されている」というケース。この場合は、社内での職種転換の相談と、社外での選択肢確保を並行して進めるのが賢明です。

いずれのケースでも、動き出すタイミングは早いほど有利です。電動化ラインの立ち上げ期は未経験者にも門戸が開きやすく、成熟してからでは経験者優遇の壁が高くなります。

(結論)城下町にいながら、円の中身を見極める

太田城下町という構造そのものは、今後も北関東の雇用を支え続けるでしょう。ただし、円の「中身」がエンジン系から電動化系へと入れ替わっていく過程では、看板だけで会社を選ぶと足元をすくわれます。投資の向きを見る目を持ち、必要なら防衛ラインを1段階でも上げておく。それが、この土地で長く働き続けるための現実的な備えです。

自分がいまどの防衛ラインにいるか分からない方は、適性診断で現在地を確かめてみてください。

皆さんいかがでしたでしょうか。変化は不安でもありますが、早く気づいた人から順に良い席に座れます。では今日もがんばりましょう。

6. 実例:エンジン系工程から電動化ラインへ移った30代の話

太田市内のサプライヤーでエンジン部品の機械加工を10年担当していた30代の男性の事例です。会社から「今後3年でエンジン系の生産量を段階的に縮小する」という説明があり、本人は当初かなりの不安を感じたそうです。ただ、同じ会社内に電動化部品の新ラインが立ち上がっていたため、まずは社内異動を希望しました。

機械加工の基礎スキルはそのまま活きる一方、電気系の知識がゼロだったため、業務の合間に第二種電気工事士の勉強を始め、半年後に資格を取得。異動後は、加工経験と電気の基礎知識を掛け合わせた人材として、むしろ以前より高い評価を得るようになりました。「エンジンがなくなる不安より、まず今の会社で足場を作る方を選んでよかった」と本人は振り返っています。

7. よくある質問

Q. エンジン系の会社にいると、もう将来性はないのでしょうか。 A. そうとは限りません。ハイブリッド車を含めれば当面の需要は残ります。ただし、会社が電動化への投資をどう進めているかは必ず確認してください。

Q. 電気の知識がゼロでも電動化ラインに移れますか。 A. 移れます。多くの新ラインでは未経験者向けの教育体制が組まれています。ただし、第二種電気工事士などの基礎資格があると、選考でも実務でも有利になります。

Q. 転職先を選ぶとき、何を優先すべきですか。 A. 給与よりもまず「その会社が次に何へ投資しているか」を確認してください。給与は結果としてついてきます。

8. 投資動向を自分で調べる方法

会社の投資の向きは、実は個人でもある程度調べられます。地元紙(上毛新聞・下野新聞・茨城新聞など)の経済面には、工場の新設・増設のニュースが定期的に掲載されます。また、群馬県・栃木県・茨城県それぞれの企業立地補助金の採択情報も公開されており、どの会社がどの分野に投資しているかの手がかりになります。求人票だけで判断せず、こうした一次情報にも目を通す習慣をつけると、会社選びの精度が上がります。

面接の場でも、担当者に「直近の設備投資の計画」について質問することは失礼にあたりません。むしろ、入社後のキャリアを真剣に考えている証拠として好意的に受け取られることがほとんどです。

9. まとめ表 — 防衛ラインごとの特徴

3つの防衛ラインを表で整理します(当メディア独自ガイドの目安値であり、統計値ではありません)。防衛ライン1(社内で電気知識を足す):コスト最小・リスク最小・変化はゆるやか。防衛ライン2(投資先の会社へ横移動):経験がそのまま活き年収ダウンが起きにくい・中程度の労力。防衛ライン3(半導体・食品メジャーへ移る):適応コストはやや高いが、自動車の景気変動から独立した安定性を得られる。

どのラインを選ぶかは、年齢・家族構成・リスク許容度によって変わります。20〜30代であれば防衛ライン3への挑戦もしやすく、40代以降であれば防衛ライン1・2を組み合わせて段階的に動くのが現実的です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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